体の痛みと不調だったAさん*60代女性

ある61歳の専業主婦A子さんが、身体の痛みに苦しんで内観研修所に来られました。

お話を聞いてみると、次のようなことがわかりました。定年退職して悠々 自適の生活をするご主人(66歳)とほとんど会話がないが、何かあると怒りにかられて、激しい口げんかするので、「瞬間湯沸器」と言われています。8,9年 前から更年期性の軽いうつ病のため薬を飲んでいます。5年前に長男を脳出血で亡くしました。

その後、睡眠時無呼吸、筋痛症で身体のいろいろな所に痛みが出てきました。とくに足に激痛が走るので、ペインクリニックで検査をしましたが原因は分からず、精神的なことからくる痛みと言われて、投薬を受けるが一向に良くならない ということです。痛みが強くて、集中内観ができそうにないので、1週間か2週間おきに、カウンセリングに来ていただくことになりました。

 

1回目のカウンセリング

A子さんは上記のことを語り、続けて、「夫は友人も多く、いろいろな趣味を持っていて、出かけることも多いが、私は身体の痛みのために外に出られないでいる。夫は私の身体の痛みのことを理解してくれない。
また、今までの子育てのしんどさや努力を認めてくれない。夫と別れて暮らしたい。」と話されました。
カウンセラーは共感的に耳を傾け、「あなたは過去や現在の状況から、嫌なこと、困ること、悪いことなどを探すことが上手です。その習慣を変えるために、『良かったこと』に意識を向けるように練習しましょう。
そして、1日10回以上『ありがとう』と言いましょう。」と提案し、それをノートに記録することを求めました。

 

2回目のカウンセリング

A子さんは毎日ノートに「良かったこと」を記入しておられました。「カウンセリングに行ったことをきっかけに、夫に話しかけてみた。」「夫と普通に話していることが嬉しい」。
カウンセラーは次の課題として、夫の良さを捜してノートに記すことを求めました。

 

3回目のカウンセリング

「夫に世話になってきたことがあったことがうれしい。夫においしいご飯を作ってあげようと思う。」「どれだけ彼に対して毒をまきちらしていたか、それを受け止められたのは、彼だからでは、など感謝の気持ちが湧いてくる」などとノートに記しておられました。

 

4回目のカウンセリング

「先週から週2回プールに行っている。2,3㎏体重が減った。睡眠時無呼吸や腰痛のためには大変良い。」「ペインクリニックの医者から『随分関節が柔らかくなってきている。薬を止めて、少し様子をみましょう』といわれた。」「夫と半日一緒に遊びに行った。一度も喧嘩をしたり、いやな思いをさせたりしなかった。夫と喧嘩しないことが、私の精神を伸びやかに楽しくしてくれる。ありがたい。」などと話されました。

 

5回目のカウンセリング

「寝る前に、太ももに手を当てて『ありがとう』と言ったら痛みがなくなった。」「プールに行く前は足が痛いが、行って見ると、1時間も歩けて、痛みもなくなる。当分この方法でやってみようと思う。」「うつ気分が時々出てくるが、お薬を飲んで少し横になったり、家事をしたり、外へ出ると短い時間でよくなる。」などと嬉しそうに話されました。

 

6回目のカウンセリング

「精神科の医者から薬を減らしましょうと言われ、とても嬉しい。」「ご飯を作ることが楽しい。夫に対して言い返すことをやめようと思う。姉に対してもグチやいやな話はしないようにしている。姉も私の変化を喜んでいる」という報告がありました。そして、身体の痛みも消えたので、内観も体験したいということで、集中内観に来られました。
[集中内観研修]内観前のアンケートに「カウンセリングを受けて、随分に変化がおき、今は幸せにも思えるようになりましたが、内面を掘り起こして芯のとおった人間になりたいと思います」と記し、母や父、夫や子どもなどに対して熱心に内観なさいました。そして、内観終了時の研修日記の「今後の行動計画」という欄には、「夫と仲良くします(一点のみ強力に願います。)」と大書しておられました。

 

7回目のカウンセリング(内観後)

「なぜ親よりも先に長男が死んだのだと怒っていたのだということが内観して良くわかりました。この怒りと夫に対する怒りから私の身体の痛みは来ていたのです」と語られました。

 

8回目のカウンセリング

「朝起きるのが楽しみである。この10年間を取り戻したい。」見た目にも本当に元気そうで、話し方もおだやかで、明るい印象でした。

 

9回目のカウンセリング

「 精神科の抗うつ剤の量が減った。」「あまり無理をしないようにしようと思う。現実的に対応できるようになっている」との報告があり、ご主人との関係も良好で、痛みも再発していないので、カウンセリングを終結しました。

 

まとめ

A子さんも「良かった探し」によって、悪いことや気分の沈むことを考える習慣を変えることに役立ちました。
また「記録内観」によって、夫から「世話になったこと」を見つけることで、夫の良さを認め、夫に話しかけるきっかけを作れました。
また、「迷惑をかけたこと」を調べることで、夫がA子さんの気分のむらを受け止め、支えてくれていたことを感謝する気持ちが出てきました。
こうして、「良かった探し」と「記録内観」という二つの技法によって、今までのように何事も否定的に受け取り、苦しみの種を見つけ、うつ状態に陥るという悪循環から抜け出したといえましょう。
そしてそのような思考や行動の変化によって、夫との関係が改善され、それが身体に良い影響を与え、痛みの解消につながったと考えられます。